大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所豊橋支部 昭和48年(少)3590号 決定 1973年9月14日

少年 K・A(昭三一・一一・一〇生)

主文

少年を保護処分に付さない。

理由

1、本件送致事実は、「少年は、法定の除外事由がないのに、昭和四八年四月二六日午後一時五五分ころ、愛知県渥美郡田原町大字○○字○○町××番地の×付近路上において、○藤○幸を乗車させて第一種原動機付自転車(田原町○×××号)を運転したものである。」というものであるところ、本件記録によると、この事実を認めることができる。

2、上記非行事実は、道路交通法一二五条一項所定の反則行為に該当するが、本件送致前に同法一二六条、一二七条所定の告知通告手続がなされていない。しかし、本件記録によると、少年は、上記車両(以下加害車という)運転時に、対向直進車である○井○江運転の軽四輪貨物自動車(×三河○××××号以下被害車という)の右前部に加害車の右側部を接触させ、加害車もろとも転倒し、約一か月間の通院加療を要する右中足骨骨折の傷害を負つたほか、被害車の右前部を破損させる交通事故を惹起したことが認められるから、以下、少年が、同法一二五条二項四号所定の「当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者」に該当するか否かについて検討する。

(1)  ところで、同法一二五条二項四号所定の「当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者」というのは、反則行為と交通事故との間に相当因果関係が存する場合、当該反則行為をした者を指称すると解するのが相当である。

(2)  本件記録によると、本件事故現場付近道路は、少年の進行方向に向つてやや下り勾配で左にカーブした道路で、その幅員は四・七メートルであり、左側にブロック塀があるため見透しが悪いうえ、本件事故当時、右側に普通貨物自動車が停車していたので、進路が狭くなつていたこと、少年は、軽くブレーキをかけながら毎時約二〇キロメートルの速度で加害車を運転していたところ、約八メートル前方に上記普通貨物自動車の左側を直進してくる被害車を発見し、ハンドルを左に切り、被害車の左側を通過しようとしたが、ハンドルを十分左に切ることができず、本件事故を惹起したこと、被害車の左側部分道路は、加害車が通過できるだけの余裕があり、少年のハンドル操作が適切なものであつたならば、本件事故は生じていなかつたこと、以上の事実が認められる。

(3)  上記認定事実からすると、少年は、本件事故現場付近道路が見透しの悪い下り勾配の道路であつたから、加害車を十分減速させ、被害車を発見した後はハンドルを十分に切るなどの適切なハンドル操作をすべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つた過失があるものといわなければならない。

(4)  しかしながら、上記のとおり、少年は、本件事故当時、加害車に二人乗車していたのであり、加害車の車種および本件事故現場付近道路の状況に照らして斟案すると、少年の加害車の減速が不十分であつたこと、および、ハンドル操作が不適切であつたのは、少年の上記定員外乗車の反則行為が相当程度影響を及ぼしていたものと推認できる。

(5)  そして、道路交通法五七条一項および同施行令二三条一号が原動機付自転車の二人乗車を禁止した趣旨は、同車両に二人乗車をした場合、同車両の重量および形状に鑑み、運転者が適切な運転操作ができない虞れがあるためであると考えられる。

(6)  このようにみてくると、少年の本件反則行為と本件事故との間に相当因果関係があるものというべきである。そうだとすると、少年は、道路交通法一二五条二項四号に該当し、同項にいわゆる反則者でないから、本件送致手続は適法であることに帰着する。

3、そこで、進んで少年の要保護性について判断するに、少年は、本件以外に非行歴がなく、本件非行について十分反省しているし、その後、車両の運転に慎重さを増していることなどを総合して考察すると、少年を保護処分に付する必要はないと認められるから、少年法二三条二項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 飯田敏彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例